2018年08月19日

 小児急性中耳炎診療ガイドラインが新しくなりました。


 今年5月に「小児急性中耳炎診療ガイドライン」が5年ぶりに改訂され2018年度版となりました。と言いつつも恥ずかしながら私自身つい先日改訂を知ったばかりなので、昨日早速手に入れて来ました。主な改訂点は4つだそうです。(日経メディカル電子版よりhttps://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201807/557025.html
1つは小児急性中耳炎の対象を、「発症1ヶ月前までに急性中耳炎ならびに滲出性中耳炎がない症例」から、「反復性中耳炎を含む小児急性中耳炎」に拡大した点。2つ目はガイドラインの使用者を耳鼻咽喉科医から携わる全ての医師へと広げた点。3つ目に治療アルゴリズムで改善があったかどうかの判断を、抗菌剤投与3日目から3〜5日目と幅を持たせたことです。4つ目は「中等症、重症の場合に鼓膜切開が可能な環境では実施を考慮する」ことが追記されましたが、これは耳鼻咽喉科的処置の重要性の啓蒙を考慮してのことと推察します。この様に2018年版ガイドラインは小児科等他科にも使用しやすいものとなっていますが、一方で耳鼻咽喉科との連携をより強調しています。

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 これ以上の詳細については一般の方達には余り関心の無い話ですので、私自身の若干の感想を述べたく思います。当院は現在地に移転して1年と3か月足らずですが、大半の患者さんは以前のクリニックに通院していた方達と入れ替わっていると思われます。その中で小児急性中耳炎について言えば、検出される菌も今までとかなり異なりまた難治例も多い印象です。居住地域や通院している小児科(あるいは内科)、集団保育の環境などが異なればこんなにも違うものかというのが正直なところです。端的に言えばここ数年前から徐々に見る機会の減りつつあった肺炎球菌やインフルエンザ菌(これらは小児急性中耳炎や気道感染症の代表的起炎菌です)の耐性菌であるPRSPやBLNARがまたここに来て割と頻繁に見られ、経口抗菌剤での治療に難渋しているのが現状です。
 よく指摘される事ですが侵襲性肺炎球菌やインフルエンザ菌に対するワクチンが定期接種されるようになった2013年以降は重症の小児急性中耳炎が減少し鼓膜切開の頻度や難治化する例が減ってきており、特に全国的なサーベイランスでも肺炎球菌による中耳炎は減少してきたという報告が多く見られます。一方でインフルエンザ菌による中耳炎は減っていません。当院でも同様の傾向であると思っていましたが、今後は考えを改めなければならない様です。
 既に薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが2016年4月に公表され、抗菌薬の適正使用つまり「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適切な量と期間」使用することが推奨されています。本ガイドラインでの小児急性中耳炎に対する第一選択薬は従来通りAMPC(サワシリンレジスタードマーク、ワイドシリンレジスタードマークなど)、CVA/AMPC(クラバモックスレジスタードマーク、オーグメンチンレジスタードマークなど)です。いまだに耳鼻咽喉科ですら(一部の小児科でも)第3世代セフェム系抗菌薬(メイアクトレジスタードマーク、フロモックスレジスタードマークなど)が通常の量で処方されていたり(吸収率が悪く割と抗菌作用は弱い)、そうかと思えばいきなりTFLX(オゼックスレジスタードマーク)が処方されていたり(抗菌作用が強く最終手段として使用される)酷い場合には朝夕別々の抗菌薬が処方されているケース(この場合は余りに中途半端でひたすら???)などを眼にします。抗菌薬の適正使用は眼の前の患者さんだけではなく、将来の患者さんのためでもあること踏まえつつ自戒を込めて守って行きたいものです。


posted by 凄腕院長 at 15:55| 日記