2019年09月23日

 難聴と認知症・うつとの関わり


 最近某週刊誌でも取り上げられましたが、近年ますます進む高齢化社会では現在1千万人以上と言われている「加齢性難聴」の方が増え続けることは間違いありません。最近の研究では難聴が社会的孤立、うつ、認知症、フレイルに陥るリスクを増加させることが言われており、この唯一の対策は補聴器を装用することです。そのあたりは一般にまだ理解されているとは言い難く、私たち耳鼻科医も本腰を入れて取り組まねばならない課題と思います。

老人性難聴.JPG

 慶応大学医学部耳鼻咽喉科の小川教授によると高齢者が難聴を放置すると男性で3倍、女性で2倍もうつになりやすいと言うことです。またアメリカの研究者が同時期に高齢者が難聴を放置することで脳の認知機能が実年齢よりも7歳も上の状態になると発表しました。さらに近年では2017年7月、国際アルツハイマー病会議(AAIC)においてランセット国際委員会が、「本人が意図すれば改善できる認知症の危険因子」を9つ提示してリスクを分析しました。その中で高血圧、肥満、糖尿病を差し置いて中年期(45歳以上、65歳未満)以降の難聴を認知症にとっての最も大きなリスク要因に挙げたのです。また、難聴のためにコミュニケーションがうまくいかないと、人との会話もつい避けがちになります。そうすると次第に抑うつ状態になってしまい社会的に孤立してしまう危険もあり、そしてそれらもまた認知症の危険因子として考えられています。
 加齢による難聴は一般的に40代頃から始まり、高音の聞こえから悪くなって行きます。そして65〜74歳では3人に一人、75歳以上では約半数が難聴に悩んでいると言われています。加齢性難聴は音を感じる部位が障害される「感音難聴」で、内耳・蝸牛内にある有毛細胞の数が減少したり、聴毛が抜け落ちることが原因で一度傷んだ有毛細胞は元には戻りません。そのため普段から騒音等の大音量を避け、規則正しい生活を送り、充分な睡眠をとり、喫煙をやめることなどが予防につながります。

   年齢別平均AG.JPG

 そして少しでも聴力の低下を感じたら早めに耳鼻科を受診していただき、加齢性難聴であれば対処をすることです。「補聴器」の役割は入ってきた音を増幅して、聞き取りに必要な音の刺激を脳に送ることです。この時「加齢性難聴」の方では十分な音刺激が伝わりにくい状態が長く続いたために、脳が「難聴の脳」になってしまっていますので、補聴器をつけ始めた当初は非常にうるさく不快に感じてしまうことがありますが、それがむしろ当たり前と思ってください。幸い脳には可塑性があり脳が耳の感度を調整してくれるので、続けていくうちに脳が「難聴の脳」から「聞こえる脳」に変わっていきます。1か月も我慢すれば日常会話が聞きとりやすくなるので、音量を調整していく必要があります。はじめは気に入らないことがあっても聴覚路のトレーニング、リハビリと思って最低3か月は続けてみて下さい。
 当院では第1,3,5木曜日が予約制の補聴器相談の日で、補聴器の試聴、フィッティングなどを行っています。どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。


posted by 凄腕院長 at 21:50| 日記