厚生労働省では、我が国の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体保有状況の把握のため、東京都、大阪府、宮城県の3都府県について、それぞれ一般住民約3,000名を性・年齢区分別に無作為抽出し、6月第一週に参加同意した計7950人(東京都1,971名、大阪府2,970名、宮城県3,009名)に血液検査を実施しました。その結果6月16日の発表によると、抗体陽性率は東京都で0.10%、大阪府で0.17%、宮城県で0.03%でした。これを見るといずれも各自治体の累積感染者の割合(5月31日時点で東京都0.038%、大阪府0.02%、宮城県0.004%)と比べ高い値となっています(つまり無症候で感染に気付かずにいるうちに自然治癒して抗体を獲得した人が相当いるわけです。)が、現時点でも大半の人が抗体を保有していないことが明らかになりました。
これとは別にソフトバンクグループが同グループ社員や医療従事者など約4万4000人を対象に実施した抗体定性検査では全体の0.43%、医療従事者に限っては1.79%が陽性と判定されました。医療従事者の中で最も陽性率が高かった職種は受付・事務などが2.0%、次いで医師が1.9%、看護師などが1.7%と続き、歯科助手(0.9%)と歯科医師(0.7%)は比較的陽性率が低く予想外でした。
これらの結果を見ると一臨床医としては意外と市中に感染が拡がっていないなと言うのが率直な感想ですが、それぞれの検査法の感度や特異度のばらつきの問題、標本抽出の問題などがあるものの、これをもって集団免疫がまだまだできていないので今後の第2、第3波による感染拡大に備えよという意見ももっともであると思います。また欧米では米ニューヨーク州で12.3%、英ロンドンで約17%、スウェーデンのストックホルムは7.3%と言う報告もあり、今までのところ日本における水際対策、クラスタ―潰し、自粛要請などの施策が奇蹟的に上手くいったのでしょうか?
一方で英国バッキンガム大学のシコラ博士によるとラザフォードがんセンターに勤務する医療従事者161名に対する検査で新型コロナウイルス既感染者の抗体保有率はわずか7.5%と低く、これを当てはめると実際の感染者は10倍以上多いことになります。
大坂大学の宮坂教授が言うように人間の体には自然免疫と獲得免疫があり抗体を保有しているということはその人が感染の既往があるという事実を表すにすぎません。新型コロナウイルスに対しては人種による感染率、重症化率の違いがありそうでその一つがBCG接種による自然免疫系の賦活化の可能性を挙げています(ヘルパーT細胞やキラーT細胞の活性化)。そもそも抗体が悪さをする(悪玉抗体)ことも報告され、また抗体ができてもどれだけ維持されるかもわかっていません。新型コロナウイルスの抗体価を測定するキットが市販され実際に検査を行っている一般診療所もある様ですが、その解釈は議論が分かれるところです。結論としては今後も気を緩めずにできる感染対策を続けていくしかないということでしょうか。