2019年01月28日

 インフルエンザの新治療薬ゾフルーザに耐性ウイルス発見


 国立感染症研究所の24日の発表では全国地方衛生研究所と共同で実施している抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスによると、1月21日時点でA型インフルエンザウイルス(H3N2型)に感染した21人に対してゾフルーザを使ったところ2人(9.5%)からゾフルーザの耐性株(I38T耐性変異)が見つかりました。A/H1N1pdm2009亜型やB型からは検出されていません。感受性試験も行っていますが、検出されたゾフルーザ耐性ウイルスの2株は野生株に比べて、それぞれIC50値(培養系でウイルス増殖を50%抑制する抗インフルエンザ薬の量)が76倍、120倍高いという結果でした。ただし、この2株はタミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬には感受性がありました。

 抗インフル薬耐性情報.JPG

 ゾフルーザ(パロキサビル)は従来のタミフルリレンザイナビルなどノイラミニダーゼ阻害薬がウイルスの遺伝子が細胞外に出るための酵素を疎外するのに対し、ウイルスのRNA合成を阻害して増殖を妨げるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬です。1回の服用で治療が完結する利便性とウイルスの抑制効果が高いという評価からマスコミで大きく取り上げられ市場でもニーズが大きいため、最近出荷調整がされたと言うことも耳にします。しかし既に治験段階から薬剤耐性ウイルスの問題を指摘され、未知の副作用が起こる可能性もあることなどから日本感染症学会も日本小児科学会も本薬剤の位置付けは不明確として積極的な推奨を見送っています。また一部の有名病院でも採用を見送っている様です。
 過去に発売後、副作用で消えた抗菌薬がいくつもあることは事実であり、また安易な処方が薬剤耐性の原因の一つとなることを肝に銘じなくてはなりません。


posted by 凄腕院長 at 13:53| 日記

2018年10月28日

 風疹患者が増え続けています


 各メディアで報道の通り、風疹患者が7月下旬頃から増え続けています。特に関東圏を中心に届出数が増加していますが、現在の流行状況は感染者数が14,000人を超えた2012〜2013年の大規模流行前の状況に酷似しており更なる感染拡大が懸念されています。そんな中札幌市においても第41週、42週(10/8〜21)と立て続けに1件ずつの報告が出ており、今年度は合計5件、北海道全体で9件が報告されました。全国では現在まで累計約1,300件報告されており、患者の多くは予防接種歴がないもしくは不明の30〜40代の男性が中心で男性患者は女性患者の5倍多く、女性では20〜30代に多くなっています。

    風疹累積報告数.JPG

 風疹は麻疹の様に空気感染はせず、咳やくしゃみのしぶきで感染する飛沫感染と、触感染(ウイルスを含んだ体液に触れた手で粘膜に触れること)で感染します。風疹の症状は発熱・発疹・リンパ節腫脹が特徴で、多くが軽症で経過しますがまれに脳炎、血小板減少性紫斑病などの合併症を起すことがあり、また大人がかかると、発熱や発疹の期間が子供に比べて長く、関節痛がひどいことが多いとされています。症状がはっきりしないまま治る「不顕性感染」も15〜30%あります。特に注意すべきは妊婦への感染です。妊娠20週頃までの初期に風疹ウイルスに感染するとおなかの赤ちゃんが先天性風疹症候群を発症する可能性があり、白内障、先天性心疾患、重度の難聴などそして精神や身体の発達の遅れなどの症状を起こします。前回2012〜2013年の流行の影響で45人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断されています。
 実は風疹自体はワクチンで防げる病気であり、日本では2006年4月から麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)が2回接種(1歳時と小学校入学前1年間の2回)として定期予防接種になっています。しかし、それ以前は接種がされていなかったりされていても1回だったり、女性だけの接種でした。(下図参照https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html)実際に30〜50代の成人男性は風疹の免疫を持っていないことが多く、今回の首都圏の風疹患者の多くは予防接種歴がない、もしくは予防接種歴不明の30〜40代の男性が中心になっています。

    風疹ワクチン接種制度.JPG

 さてここからが本題ですが、2014年3月に出された厚生労働省の風疹に関する特定感染症予防指針では「早期に先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、平成32(2020)年度までに風疹の排除を達成すること」を目標としています。そのためには妊婦さんへの感染を防止することが重要であり、感染拡大を防止するためには30〜50代の男性に蓄積した感受性者を減少させる必要があります。社会全体で風疹を撲滅していくためにもまずは血液検査で抗体検査を行い、充分な抗体が無い場合にはMRワクチンの2回接種が勧められます。ただし当の妊婦さんは風疹含有ワクチンの接種は受けられません。また接種後は2ヶ月間に妊娠を避ける必要があることをお忘れなく。特に優先して接種すべき人としては定期接種対象者(1歳児と小学校入学前1年間の幼児)と妊娠を予定している女性以外だと、妊婦周囲の人、特に妊婦さんの家族の方です。


posted by 凄腕院長 at 22:56| 日記

2018年08月19日

 小児急性中耳炎診療ガイドラインが新しくなりました。


 今年5月に「小児急性中耳炎診療ガイドライン」が5年ぶりに改訂され2018年度版となりました。と言いつつも恥ずかしながら私自身つい先日改訂を知ったばかりなので、昨日早速手に入れて来ました。主な改訂点は4つだそうです。(日経メディカル電子版よりhttps://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201807/557025.html
1つは小児急性中耳炎の対象を、「発症1ヶ月前までに急性中耳炎ならびに滲出性中耳炎がない症例」から、「反復性中耳炎を含む小児急性中耳炎」に拡大した点。2つ目はガイドラインの使用者を耳鼻咽喉科医から携わる全ての医師へと広げた点。3つ目に治療アルゴリズムで改善があったかどうかの判断を、抗菌剤投与3日目から3〜5日目と幅を持たせたことです。4つ目は「中等症、重症の場合に鼓膜切開が可能な環境では実施を考慮する」ことが追記されましたが、これは耳鼻咽喉科的処置の重要性の啓蒙を考慮してのことと推察します。この様に2018年版ガイドラインは小児科等他科にも使用しやすいものとなっていますが、一方で耳鼻咽喉科との連携をより強調しています。

   小児AOMのGL.JPG
 
 これ以上の詳細については一般の方達には余り関心の無い話ですので、私自身の若干の感想を述べたく思います。当院は現在地に移転して1年と3か月足らずですが、大半の患者さんは以前のクリニックに通院していた方達と入れ替わっていると思われます。その中で小児急性中耳炎について言えば、検出される菌も今までとかなり異なりまた難治例も多い印象です。居住地域や通院している小児科(あるいは内科)、集団保育の環境などが異なればこんなにも違うものかというのが正直なところです。端的に言えばここ数年前から徐々に見る機会の減りつつあった肺炎球菌やインフルエンザ菌(これらは小児急性中耳炎や気道感染症の代表的起炎菌です)の耐性菌であるPRSPやBLNARがまたここに来て割と頻繁に見られ、経口抗菌剤での治療に難渋しているのが現状です。
 よく指摘される事ですが侵襲性肺炎球菌やインフルエンザ菌に対するワクチンが定期接種されるようになった2013年以降は重症の小児急性中耳炎が減少し鼓膜切開の頻度や難治化する例が減ってきており、特に全国的なサーベイランスでも肺炎球菌による中耳炎は減少してきたという報告が多く見られます。一方でインフルエンザ菌による中耳炎は減っていません。当院でも同様の傾向であると思っていましたが、今後は考えを改めなければならない様です。
 既に薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが2016年4月に公表され、抗菌薬の適正使用つまり「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適切な量と期間」使用することが推奨されています。本ガイドラインでの小児急性中耳炎に対する第一選択薬は従来通りAMPC(サワシリンレジスタードマーク、ワイドシリンレジスタードマークなど)、CVA/AMPC(クラバモックスレジスタードマーク、オーグメンチンレジスタードマークなど)です。いまだに耳鼻咽喉科ですら(一部の小児科でも)第3世代セフェム系抗菌薬(メイアクトレジスタードマーク、フロモックスレジスタードマークなど)が通常の量で処方されていたり(吸収率が悪く割と抗菌作用は弱い)、そうかと思えばいきなりTFLX(オゼックスレジスタードマーク)が処方されていたり(抗菌作用が強く最終手段として使用される)酷い場合には朝夕別々の抗菌薬が処方されているケース(この場合は余りに中途半端でひたすら???)などを眼にします。抗菌薬の適正使用は眼の前の患者さんだけではなく、将来の患者さんのためでもあること踏まえつつ自戒を込めて守って行きたいものです。


posted by 凄腕院長 at 15:55| 日記